「縦横一筆掃千軍」(じゅうおういっぴつ せんぐんをはく)
自由自在の筆の動きは千軍を掃わんばかりの勢いがある、という意味。縦横は篆書体、一筆は隷書体です。軸には息子の七五三の時の着物を使っています。
「天馬翔る」(てんま かける)
「天」は隷書体、「馬」は篆書体、「翔る」は青墨で書いています。
退職して乗馬を楽しむ恩人へ贈った作品です。
「夕立やお地蔵さんもわたしもずぶぬれ」
(夕立やお地蔵さんもわたしも(毛)ずぶぬれ(連))
「夕立」は隷書体、「地蔵」は篆書体です。
夕立は激しくお地蔵さんもわたしもすっかり濡れてしまいました。”夕立”を隷書体で強い線で、その後のかなと隷書のやわらかい線と対比させました。
「楽琴書」(きんしょをたのしむ)
楽―草書、琴―篆書、書―隷書
音楽と読書を楽しむということ。音楽や読書は文人のたしなみとされていました。「楽」という字は、元は鈴(白)と糸かざり(⺓)のついたお祈りの楽器を巫女が奏で舞踊り、神様を楽しませるというのが成り立ちです。草書体の「楽」は、柔らかく動きがあって実に楽しそうです。
「櫻艸」(さくらそう)
篆書体で書いています。墨は青墨(せいぼく)を使っています。青墨の作品は、濃く磨った青墨の墨と水で薄めた墨を用意し、筆に薄めた墨を含ませた後濃い墨を少し穂先に付けて書きます。それぞれの墨の含ませ具合、筆の運びなどで微妙な色の違いが出ます。
「ぶなの木の育ちて樹齢九十年美人林が水面に揺らぐ」
(ぶなの木の(乃)育ちて樹齢九十年美人林が水面に(二)揺らく(久))
木―篆書、九十年―隷書、美人林―篆書
母が詠んだ短歌を私が書き、父が掛け軸に仕上げました。美人林は新潟県十日町市松之山にあるぶなの林です。
かなの作品は、ひらがなと草書の漢字をつかって流れるように柔らかく書きますが、途中で隷書や篆書を混ぜることで変化を持たせることができます。
「袋表具」という表装で仕立ててあります。袋表具は何の飾りがない表装が良しとされた江戸時代の表装で、文人表具ともいわれる粋な表装です。
「一点の雲も見られぬ空を統べ光り輝く十三夜の月」(一點の雲も見られ(連)ぬ空を(越)統へ光り輝く十三夜の(乃)月)
一點―隷書、月―篆書
母が詠んだ短歌を私が書き、父が掛け軸に仕上げました。點は”点”の旧字体です。夜の風景を詠んだ歌ですが、月の明るさが感じられるので、一面に金粉が散らしてある紙に書きました。
表装は明朝仕立てです。掛け軸の両端に細い縁をつけた様式です。特にこの掛軸は「沈み明朝仕立て」といい、筋を裏から貼ることで表具表面よりも沈んでいるように作られています。一番上品と言われる表装です。
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